「事業継続力強化計画」作成のお勧め

 令和6年1月1日(月)午後4時10分、石川県能登地方を震源とする地震が発生し、同県志賀町で震度7の揺れを観測した。続いて、日本海側に押し寄せた津波による被害が発生。気象庁は「令和6年能登半島地震」と命名した。               

 地震で亡くなった方々のご冥福をお祈りするとともに、被災された皆様に、心からお見舞いを申し上げます。今後も余震への警戒が必要でしょうが、一日も早い復旧を祈ります。

災害(震災)はいつ起こるかわからない

 

 能登地方では22年6月に震度6弱、23年5月に震度6強を観測するなど、3年以上にわたって地震活動が活発化しており、今回の地震で、能登半島の先端にある珠洲市では、木造住宅は垂直方向に押しつぶされたように崩れ、残った瓦屋根が道路を塞いでいる様子。                                                                            

 木造住宅が崩れ、瓦屋根がそのまま「ドスン」と大きな音を立てて地面に崩れ落ち、周囲の住宅のうち7~8割は倒壊しており、複数の人が家の下敷きになったという。

 これほど壊滅的な被害となった背景には、街の低い耐震化率と、高い高齢化率がある。

 珠洲市によると、市内にある住宅約6000軒のうち、2018年度末までに国の耐震基準を満たしていたのはわずか51%。同じ時期の全国の耐震化率(87%)と比べても極端に低かった。一方、20年の珠洲市の65歳以上の割合(高齢化率)は、石川県内で最も高い51.7%だ。

 市全体の2割程度が空き家になっており、手入れが行き届かずに老朽化しているケースも少なくなかったとみられる。

 珠洲市の泉谷市長は、「市内の6000世帯のうち9割が全壊またはほぼ全滅だ。残っている家がほとんど無い。」と窮状を訴えた。

 一方、2024年1月3日の調査では比較的新しい家は外観を保っていたことも確認した。00年の耐震基準改正後に建てられたとみられ、新たな基準が倒壊防止に役立っていた可能性があるという。

 今回のような地震の発生を受けて、本来の事業継続復活を図るためには、事前の対策とその計画が必要になる。目標に定めた時間内に、復旧を図る事業継続計画(BCP:BisinessContinuity Plan)による対応が進められる。

「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」とは

 中小企業において必要とされる「事業継続力強化計画(ジギョケイ)」(以下、「ジギョケイ」と表記します。)は、自社の災害リスク等を認識し、防災・減災対策の第一歩として取り組むために、必要な項目を盛り込んだもので、将来的に行う災害対策などを記載するものである。

 経済産業省に計画を作成申請し、認定を受けた中小企業は、経済産業省認定のロゴマークを活用でき、防災・減災設備に対する税制措置、低利融資、補助金の加点措置等を受けることができる。

 リスクは、潜伏期→警戒期→発生期→鎮静期の、サイクルを描く。そして、多くのリスクは、リスクが発生する相当以前から、警戒シグナルを発している。このリスクの発生するシグナルをキャッチすることが、リスクの「気づき」となる。      

a. 「潜伏期」には、微弱なシグナルに「気づき」、リスクの予知、予測を図る。

b. 「警戒期」には、このシグナルが大きくなり始めていることに「気づき」、効果的な手だてを講じることにより、リスクを顕在化させないか、あるいは、顕在化した場合も、その影響を最小限に食い止める「リスク対応力」の強化を図ることが課題となる。

 こうしたリスクのシグナルを監視し、会社を挙げて「気づき」のレベルを上げることは、日常のリスクマネジメント活動の出発点であり、かつ、大変重要な入口となる。

c. 「発生期」は、リスクが現実に発生し、「危機管理」、「緊急対応時」、あるいは、「インシデントマネジメント(事故や事故が発生する恐れがある状態を発生の把握から収束までとフェーズに分けて管理することで、同じインシデントを繰り返し発生させないようにし、運用をスムーズにする取り組みのことをいう。) 」等と呼ばれる発生直後の初期的対応を実施する局面である。この局面では、警戒期に備えていた手立てにしたがって、人命、財産、名声、業務阻害等の、主に、損害発生の抑制を図る。

d. 「鎮静期」には、主として、目標に定めた時間内に、復旧を図る事業継続計画(BCP:Bisiness Continuity Plan)による対応が進められる。

 記憶に新しい2016年の熊本地震で、この「ジギョケイ」を作成していた企業と、そうでない企業を比較したデータがある。熊本地震における事前対策の有無と事業再開までの期間を調べたところ、被災後、BCP等の事前対策を講じていた企業は13日で生産再開できたが、BCP等の事前対策を講じていなかった企業は、生産再開まで41日かかったそうだ。

 あくまで、一例にはすぎないが、事前対策を行っていた企業の方が早期に復旧できており、いかに事前対策を立てておくかが重要になる。

「事業を止めないで継続する」ために、多くの企業で「BCP(事業継続計画)」の作成が進められてきたが、中小企業においてBCPの作成はなかなか難しいとの声があり、「BCPのはじめの一歩」として、防災・減災の事前対策に力点を置いた簡易型のBCP「ジギョケイ」が登場した。


「ジギョケイ」作成の必要性

 ではなぜ、「ジギョケイ」を作成することが必要なのだろうか。それは、事業が社会の一員としての責任を果たすためである。たとえば、商品・製品・サービスを顧客に届ける「供給責任」、従業員とその家族の生活を支える「雇用責任」などを果たしていくためには、様々なリスクを乗り越えて、事業を継続していかなくてはならない。そのための「ジギョケイ」である。

 もしかしたら経営者のなかには、「ジギョケイ」を災害に備えた「防災計画」や災害・事故が起こった時にどのように行動するかを定めた「危機管理マニュアル」と同じように考えている方もいるかもしれない。「ジギョケイ」は、これらの計画やマニュアルとは異なり、リスクに強い企業、事業継続力のある企業をつくるための「事前対策」に力点が置かれている。ここが大きく違う点である。

 この事前対策は、業務フロー、人材育成、資金調達、組織体制、事業連携など、企業経営と深く関わってくる。つまり、「ジギョケイ」は「経営計画」の一つなのである。

 事業継続には「経営資源(ヒト・モノ・カネ・情報)」が欠かせない。「ジギョケイ」では、これらの経営資源ごとに、リスク対策を考えていく。

 たとえば、「人のリスク対策」として、中小企業・小規模事業者においては、一人の人材が担う役割が大企業よりも大きくなりがちである。このことからも、ヒト対策は重要になる。万一の時、社長の代わりになる人材づくり、一人の従業員が様々な業務をできるようにする多能工化、防災教育・感染教育の推進などが考えられる。

 また、テレワークなど多様な働き方に対応できる環境づくりは、平時だけでなく有事にも役立つ。

 次に「モノのリスク対策」として、東日本大震災では、東北地方の部品メーカーが被災したことで、被災していない地域の企業の操業に影響がでた。サプライチェーンを寸断させないためにも、モノ対策は重要である。自社の操業停止が他社の操業停止につながることや、その逆にならないように準備を進める必要がある。具体的には、想定されるリスクに合った防災・減災設備(自家発電設備や免震装置など)を導入することなどが考えられる。

 また、「カネのリスク対策」として、地震や風水害などで建物や設備が壊れてしまったら、事業の復旧と再開に多額の資金が必要になる。長期的なリスクファイナンス対策として保険の活用も検討を要する。大きな被害を受けた場合、復旧・復興のための補助金・融資等の支援制度が設けられることがある。また、日頃から支援機関・金融機関とのコミュニケーションを密にしておくことで、被災時の支援を受けやすくなる。

 ぜひ、「ジギョケイ」で、事前対策を考えてみてはいかがでしょうか。

 当社では、御社の「ジギョケイ」作成のお手伝いができます。ご一報ください。

(参考文献)

指田朝久著(2022)『リスクマネジメントと危機管理ガイドブック』同文館出版株式会社。 上田和勇著(2016)『事例で学ぶリスクマネジメント入門』同文館出版株式会社。 内田知男著(2011)『リスクマネジメントの実務』株式会社中央経済社。 小林誠著(2011)『リスクマネジメントQ&A100』日刊工業新聞社。 柳瀬典由/石坂元一/山﨑尚志著2019『リスクマネジメント』株式会社中央経済社。 荻原勝著(2007)『危機管理リスクマネジメント規定全集』株式会社中央経済社。